刈払機、チェーンソーのキャブレター構造、原理を理解しよう
エンジンの調子が悪くなる原因の多くはキャブレター不具合によるものです。
そんなキャブレターにはたくさんの穴や、部品がついており複雑に見えます。
しかしキャブレターの役割と基本構造を理解することで、誰でもキャブレターのオーバーホールを行う事ができるようになると思いますので、ぜひ最後まで読み進めてください。
キャブレターの役割
キャブレターではガソリンと空気を混ぜて「混合気」を作り、エンジンに燃料を供給しています。
混合気とはガソリンを燃えやすい霧状にし、空気と混ざった状態を言います。この混合気の濃さ(空気とガソリンの比率)と、混合気そのものの量を調整する役割があります。
実際のエンジンでは回転数や負荷に合わせて燃料の量を調整しなくてはなりません。この細かな調整をするために多くの穴があいた構造となっています。
その為、キャブレター内に異物や汚れが堆積すると、適正な混合気が作れずエンジンの不調をきたす原因となります。
キャブレターの原理
ではどのようにキャブレターで混合気を作っているのか説明していきます。
まずキャブレターは大きく2種類に分類出来ます。
・フロート式 ・・・比較的大きなエンジンで使用される(バイクなども同じ構造)
・ダイヤフラム式 ・・・刈払機やチェーンソーなど小型エンジン
ガソリンを霧状にするための構造は基本的に同じですが、霧状にするためのガソリンを一時的に溜める部分の仕組み違いがあります。
ここでは構造が分かりやすい、フロート式であるバイク用のキャブレターの図を参考に原理の説明をしていきます。
引用元:キタコHPより
この図の青色がエアクリーナー側、赤色はエンジン側となります。中心にある針のような部品をニードルといいます。アクセルを開けるとニードルはスロットルバルブ(ニードルを固定している円筒の部品)と一緒に上にあがります。
「アクセルを開ける」とはキャブレターの空気の通り道と、ニードルで塞がれた燃料の出口を徐々に開いていく動作を指します。
燃料タンクから送られたガソリンは、フロート室と言われるキャブレターの底面に溜められます(オレンジ色)。このガソリンはストローのような細い管(図の中心部)で、空気の通り道と繋がっており、空気が通過するとこの穴から燃料が吸い上げられて混合気となります。
空気の通る量ををコントロールしているのが上記のスロットルバルブであり、吸い上げられる燃料の量を調整しているのがニードルとなります。
(ニードルは先端にいくほど細くなっており、上に引き上げられることで燃料が出る隙間が大きくなります)
アクセル開度が少ない状態では通過する空気の量も減り、燃料を吸い上げる力も弱くなります。その為、図の中心の管からでは無く、右側にあるさらに小さな穴(※1.パイロットジェット)を通過して燃料が吸い上げられます。
※1.スロージェットと呼ぶ場合もあります。
この燃料が吸い出される現象は身近に体験することができます。
例えば高速道路を走行中に車の窓を少しだけ開けると、車内の空気が吸い出される経験をされたことがあるのではないでしょうか。これは車外の圧力が車内の圧力に対して低くなったためです。
この現象をベンチュリー効果といいます。
空気や水などの流体は、速く流れるほど圧力が下がると覚えておけばOKです。
圧力に差ができると、同じ圧力になろうとすることから、引き寄せる力が働くことで燃料が管から吸い出されます。
ベンチュリー効果ではありませんが、上記圧力の関係についても少し触れたいと思います。
膨らませた風船の口を緩めるとしぼんでしまいます。これは風船内の圧力が大気圧よりも高いことによるためです。(圧力の高いほうから低い方へ空気が移った)
逆もあります。富士山の頂上へお菓子を持っていくと袋がパンパンに膨れます。これは袋の中の圧力よりも標高が高いところでは大気圧が下がったことによります。
キャブレターでは上述したベンチュリー効果による圧力差を利用し、キャブレター内を通過する空気が生み出す負圧(マイナスの圧力)でガソリンを吸い上げています。
空気が通過する場所は幅が狭くなっており、流速が上がります(水が出るホースの先端を潰すと勢いよく出る=流速が上がる)。そうすると圧力は下がり、溜められているガソリンが吸い上げられて霧状の混合気となります。
エンジンの回転数が低い時は流速も小さく、発生する負圧も小さくまります。その為、燃料を吸い上げる穴が大きいと「負圧」<「ガソリンの重量」となり、うまくガソリンを吸い出せません。そのため低回転用に小さな穴(経路)を設けています。そして、この小さな穴からでるガソリンの量を調整する役割が図中にあるパイロットスクリューとなります。(農機具ではついていないものもあります)
また、アクセルの開度(中心にあるニードルとホルダーが上下する)に合わせてキャブレターの中で複雑に燃料の吐出量を調整しているのでは無く、アクセルで入ってくる空気の量を調整し、その空気の量に合ったガソリンが吸い出される事でエンジンの回転数を上げたり下げたりしていることが分かります。
キャブレターの種類によってはアクセルにより空気の入る量を調整する際、ガソリンの出る穴の大きさ(断面積)を調整しているもの(図のタイプ)と、大小の燃料穴だけが設けられ空気の通路を開け閉めするだけのバタフライ方式とがあります(主にチェーンソーのキャブレター)。
それでは次に、刈払機のキャブレター構造について説明していきます。
刈払機キャブレターの構造
刈払機やチェーンソーのキャブレターの多くはwalboro(ワルボロ)製が使用されています。
初めにキャブレターは大きく2つに分けられると説明しましたが、バイク用のキャブレターと、このwalboro製のキャブレターに分けられると思います。
大きく違うポイントは、キャブレターに燃料を溜める部分の構造です。上記で説明したキャブレターではフロートと言われる部品でキャブレター内に適正な量の燃料がタンクから流れるようになっています。
しかし、刈払機などのキャブレターではこのフロートが無く、ダイアフラムという部品でキャブレター内へ燃料を送り、適正な量を保つように作られています。
これは刈払機やチェーンソーはいろいろな角度で使用することに起因しており、フロートタイプではキャブレターが常に水平な状態でなければ、溜めてある燃料が流れ出て正常に使用できないためです。この現象をオーバーフローと言います。
また、フロートを持たないことからキャブレター自体も非常にコンパクトにする事が出来るうえに、燃料ポンプも内蔵しているため燃料タンクがキャブレターの下でも問題ありません。
メリットだけに思えるかもしれませんが、小さなキャブレターにこのような機能を持たせるデメリットもあります。それはこの機能をキャブレター内の消耗品で構成しているという点です。
通常キャブレターの調子が悪い状態と聞いて、まずイメージするのはキャブレター内の汚れや詰まりですが、刈払機やチェーンソーではこの消耗品がヘタることで不調となっている事が圧倒的に多いといえます。
その為、キャブレターを大きく2つに分けられると説明しましたが、修理する上では特に大きなポイントで、通常のキャブレターでは中をきれいにする事メインですが、刈払機等では洗浄+消耗品の交換を前提として下さい。
それでは構造の詳細を説明していきます。
Wolboro製キャブレター
今回使用しているキャブレターは、RYOBI製26ccの刈払機のものになります。
さっそくキャブレターを分解していきます。
まずは燃料を送るためのプライマリーポンプ側についている4本のネジを外します。
ネジと一緒に押さえ板を外すと樹脂の部品が出てきます。ボディアッセンブリーといいます。
こちらもマイナスドライバー等で傷をつけないように注意しながら外していきます。
次に見えてきた部品が、ダイヤフラムメタリングと言われる部品になります。
この部品は消耗品ですので洗浄後、組み立て時に新品へ交換します。
ダイヤフラムを外すと(張り付いている事が多くカッター等で丁寧に取る)、写真のように丸く空間ができています。この空間が先ほど見たフロート式キャブレターでいうところの燃料を溜める部分になります。
少しイメージが難しいかもしれませんが、先ほどのダイヤフラムは燃料を通さず、黒いダイヤフラムとこの丸い空間に燃料が溜まります。燃料が吸われて少なくなると、ダイヤフラムが引き寄せられ空間が狭くなります。
ダイヤフラムが吸い寄せられると中心のレバーを押し、シーソーの様にレバーの先端についているバルブを持ち上げる事で燃料が供給されます。十分に燃料が供給されるとダイヤフラムが元の状態に戻りレバーを押さなくなるため、燃料の供給が止まります。実際にはかなり早いスピードでバルブの開け閉めを繰り返しています。
次に燃料貯留部を外した状態です。古いものは張り付いていて外し難いことがよくあります。
写真に写っている黒いものがダイヤフラムポンプといい、燃料をタンクから吸い上げて貯留部へ送る役割をしています。
ダイヤフラムポンプを外した状態です。ガスケットが張り付いてキレイに取れない事が多いので、残ったガスケットは丁寧に除去します。
ダイヤフラムポンプですが、どのようにしてタンクから燃料を汲み上げ、貯留部に送っているのか。
その原動力として使っているのは、ピストンが上下する際に発生するクランクケース内で発生する圧力になります。
ピストンが下がるとクランクケース内の圧力は高くなり、ピストンが上がるとクランクケース内の圧力は下がります。
写真の赤丸部にある穴をたどっていくと、マニホールドを通じてエンジンのクランクケースに繋がっています。
圧力が高くなったり低くなったりすると、ダイヤフラムポンプ(実際には弾力のあるフィルム)がペコペコと動き、燃料タンクから燃料を吸い上げて貯留部へ送り出します。
ただし、キャブレターとタンクからの燃料ホース内に空気があるとうまく汲み上げられないため、エンジン始動前に必ずプライミングポンプを指で何回か押してキャブレターに燃料を送る必要があります。何気なく毎回やられていますよね。
またキャブレター内ではダイヤフラムポンプによって押し出された燃料は一方通行になっており、貯留部まで送られるようになっており逆流しないようになっています。
上記のことを知っていれば複雑なキャブレターですが、燃料が入ってくる穴から順番に自分で経路を追いかける事ができ、無事に貯留部まで辿り着けるとおもいますので、ぜひ一度確認してみてはいかがでしょうか。
追いかける事ができると仕組みが理解できているので、組み立て時にダイヤフラムポンプのフィルムとガスケットどちらを先に付ければいいのか理屈で分かり間違う事が無くなります。
ちなみに、自身で修理して調子が悪い機械で、まれにフィルムの組み付け順番を間違っているものを見た事があります。困ったことに間違っても不調ながらエンジンがかかってしまうことがありますので注意が必要です。
以上で刈払機用キャブレターの構造説明は終了です。
この説明でダイヤフラムという消耗品がいかに重要な役割を果たしているか、理解頂けましたでしょうか。